タトゥー業界はデザインの発展とともに、使用される道具・機械も大きく発展を遂げてきました。
針はより多様かつ鋭利に、インクはより発色が良く安全に、そしてマシンはより効率良く肌に入るよう、全ての道具において進歩を続けています。
今回はそんな中でも、いまだにタトゥーファンを魅了する”手彫り”にフォーカスし、その良さやマシン/機械彫りとの違いについてご紹介します。
GOOD TIMES INKのゲストアーティストで手彫りを施している彫師、”彫忠”についても触れておりますので、是非最後まで読んでみてください。
刺青・タトゥーの”彫り方”の種類
日本の手彫りを説明するにあたって、まずはタトゥー・刺青の技法の種類をざっと説明し、日本伝統刺青の手彫りがどこに位置するのかを説明します。
ポリネシアンの”手彫り”
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さて、皆さんは”タトゥー”という言葉が、タヒチ語の”タタウ”という言葉に由来しているのはご存知でしょうか。タトゥー文化の起源については様々な議論がなされており、いまだ厳密な時期・時代は不明瞭なままですが、少なくとも数千年〜数万年前からタトゥー自体はあったとされています。
”タタウ”という行為
当時は『木の棒に”カラマンシー等の柑橘系の植物のトゲ”』を使用し、肌へ墨を叩き入れる形でタトゥーを施していました。現代のポリネシアン/トライバルタトゥーアーティストでも、当時の技法を忠実に再現して施術を行う方もいます。
日本の和彫りの”手彫り”
今回歴史の話は割愛しますが、およそ江戸時代に現代のような”装飾を目的とした刺青文化”が始まったとされています。
和彫りにおける手彫り
鑿(ノミ)と言われる、竹製・木製・金属製の長い棒の先端に、複数の針を結びつけたものが主流とされています。(※写真はディスプレイ用のものであり、現在は施術に使用していません。)
トライバルの手彫りが『叩く(ハンドタッピング)』と言われるのに対し、突き上げるように針を刺し入れる日本の手彫りは『突く(ハンドポーク)』等と表現されます。
手彫りの中でも、短い鑿で鉛筆のように持って施術する”三味線彫り”など、さまざまな技法が存在すると言われています。
サクヤンの”手彫り”
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東南アジア(特にタイ)でみられる伝統的なタトゥーの一種に、”サクヤン”というものがあります。
伝統的なサクヤンは「サクヤンマスター/アーチャン」と呼ばれる”僧侶・伴侶”が行うもので、祈りと戒律を与えて施術する”宗教行為”の一部でもあります。
サクヤンにおける”手彫り”
サクヤンでは現在、ステンレス製の長い棒を使用してタトゥーを施します。伝統的なスタイルでは、サクヤンマスターと別にもう2名の伴侶が皮膚のストレッチのためにつき計3名で施術を行いますが、現在はその限りではないかと思います。
先ほどの叩く、突く…といった表現の中では、肌へ垂直に静かに施術を行っていくことから、”刺す”というのが近いのかな、と筆者は思っています。
手彫りの良さとメリット/違い
前置きはさておき、本題である日本の伝統和彫りの”手彫り”について、マシン彫りとの違いも踏まえてご紹介します。タトゥーマシンが便利に効率よく進化していく現代でも、手彫りが人々を魅了する理由は何でしょうか。
手彫りの特徴・メリット
手彫りを施す彫師の方々がしばしば言っているのは「手彫りで彫った色は、経年とともに深みを増していく」ということでしょうか。ここでいう”深み”というのは、”色が濃い”という表現に近いと思われます。
白や朱など特に発色が良いとされる色もあり、「マシン彫りより、針を刺した際の穴が大きく、顔料がよく入ることが理由」と聞いたことがあります。(※諸説あり)
しかし、必ずしも「マシン<手彫り」というわけではなく、あくまで手彫りにしか出せない風合いがある…というのがニュアンスとしては近いのではないでしょうか。
手彫りとマシン彫りとの違い
タトゥーマシンでの施術と大きく異なる、施術時間と痛み、そして仕上がりの違いについて説明します。
施術時間の違い
タトゥーマシンは、電気の力で針を上下させることから、およそ1秒間に数100〜数1000回の針を肌に刺しますが、対して手彫りでは1秒間に3〜5回ほどが一般的です。
単に数十倍の時間がかかるという訳ではありませんが、おおよそ2倍〜3倍の時間がかかってくることが多いです。同時に、例えば施術金額がマシン彫りと同様の場合は、それに対応する形で施術の合計金額がかかる…というのも差異の一つだと言えるでしょう。
痛みの違い
タトゥーマシンが「鋭利なもので引っ掻かれているような痛み」だとしばしば例えられますが、手彫りは他に例えようのない「手彫りで刺青を入れられている痛み」です。
(—としか表現できず、すみません。)
痛みの大きさとしては、瞬間的な痛み自体はタトゥーマシンの方が痛いと思っています。しかし、手彫りは痛みのムラ(痛いタイミングと、痛くないタイミング)が大きく、彫られていて少し疲れる…というのが筆者の感想です。
もちろん個人差があり、「露骨に手彫りの方が痛い!」という方や、「手彫りは眠くなるほど痛くない。」といった方もいますので、一概にどちらが痛い…と比較するのは難しいと思います。
仕上がりの違い
タトゥーマシンはニードルの選定やセッティング、機械本体のバリエーションなどから、手彫りと比較した際に繊細な表現を得意としています。主にラインやシェイディング(ぼかし)を、こと綺麗・精密に早く彫ろうと思うと、タトゥーマシンに軍配があがるでしょう。
対して手彫りの場合、塗り・潰しなど、ベタッとした仕上がりのものは得意ですが、特にラインを均等に真っ直ぐに引く…となると、かなりの難易度を要します。そのため、ラインはタトゥーマシンで引き、必要に応じてカラーパッキング・シェイディングは手彫りで施術する、といった彫師の方も少なくありません。
総手彫りについて
ラインからぼかし、塗りつぶしまで、全ての施術部位を手彫りで行うことを、総手彫りと呼びます。日本にも少ないながら総手彫りを行う彫師がおり、中には世界的な著名彫師・アーティストもいらっしゃいます。
刺青|手彫りの料金について
手彫りの施術料金についてですが、1時間あたりの料金はマシン彫りとそこまで変わらないことが多いかと思います。
(※胸〜腕や、背中一面などの大柄の刺青・タトゥーに関しては、和彫り・洋彫りにかかわらず時間彫り(1時間ごとに〜万円…等)を採用しています。)
しかし先に説明した通り、基本的には手彫りの方が施術時間が長くかかってしまうため、結果的に手彫りの方が施術の合計金額が高くなる…という料金形態が一般的かと思います。
当店での施術料金に関するご質問は、Contactページよりお気軽にお問い合わせ下さい。
GOOD TIMES INKの彫師について
当店では、関西伝統の一門である『彫重一門』より、彫日出一門の二代目彫日出をメインアーティストとしています。二代目彫日出は、その経歴や感性からマシン彫りを選択しており、繊細ながら深みのある表現が得意です。
彫忠について
また上記の彫重一門より派生した彫京一門から、ゲストアーティストとして「彫忠」を迎えており、彫忠はマシン彫りと手彫りとどちらの施術も行っています。
お客様より、ご希望があった際に内容に応じて施術していますので、お気軽にこちらよりご相談下さい。
アーティスト紹介は”こちら”。
まとめ
今回は、日本伝統刺青の技法である”手彫り”についてご紹介しました。
当店の施術に関して、何か気になることがありましたら、お気軽にコンタクトページ(https://goodtimesink.jp/ja/contact/)よりご連絡下さい。